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養育費に関する令和6年民法改正について
令和6年に民法が改正され、養育費についてもいくつかの重要な制度変更が定められました。
改正法の施行時期は、公布から2年以内とされており、現時点ではまだ施行されていませんが、このコラムでは、まず養育費の基本的事項について説明したうえで、今回の民法改正によりどのような制度変更が行われたのかについてご紹介します。
養育費の基本
養育費とは、「子の監護に要する費用」、つまり子どもが生活するために必要な費用をいいます。
子どもを持つ夫婦が離婚する場合に、その後子どもを養っていく親(監護親)に対し、他方の親(非監護親)が支払うべき費用です。
また、婚姻していない男女の間に生まれた子について、父が認知をした場合にも、父は養育費の支払義務を負うことになります。
養育費の金額については、父母が話し合いで決めるのが原則です。話し合いで決めることができない場合は、家庭裁判所での調停、審判手続により、裁判所が定めることとされています。
家庭裁判所が養育費を算定するにあたっては、子どもの人数、年齢、父母の収入額等が考慮されます。
具体的な算定をする場合、複雑な計算式がありますが、より簡易に算定できるよう、子どもの人数や年齢に応じた養育費算定表が作成されています。裁判所のホームページ上でも一般に公開されており、実務上はこの算定表を利用して養育費について協議、決定することがほとんどと思われます。
以上を踏まえて、令和6年の民法改正により養育費制度にどのような変更がなされたのかをご紹介していきます。
養育費制度の主な改正内容は次のとおりです。
- 養育費の先取特権の導入
- 法定養育費制度の新設
- 調停における情報開示手続の変更
養育費制度改正の目的
上記のとおり、養育費は父母の協議により定めるのが原則とされていますが、現実には様々な事情から具体的な取り決めをしないまま離婚するケースが少なくありません。
あるいは、取り決めはしたものの約束どおりの支払がなされず、結果として養育費不払いの状態が続いてしまう例も多くあります。
その結果、子を養っている親が経済的に困窮し、子どもの衣食住や教育など十分な養育環境を整えることが難しい状態に陥ることになります。
これまでの養育費制度の下でそのようなことがしばしば問題となっていたため、これを改善すべく、今回の民法改正により養育費制度が変更されることになりました。
養育費の先取特権の導入
養育費制度の主な改正の1つ目として、先取特権の導入が挙げられます。
先取特権とは、一定の債権を持つ債権者に対して、法律の規定により当然に与えられる担保物権の一つです。
先取特権には、一般の先取特権、動産先取特権、不動産先取特権の3種類がありますが、今回の民法改正により、養育費請求権には一般の先取特権が与えられることになりました。
これまで、養育費が支払われない場合、まず調停、審判あるいは訴訟により養育費の支払についての債務名義(調停調書、判決書など)を取得し、次に、その債務名義に基づいて強制執行手続(財産の差押え、換価、回収)をとる必要がありました。二段階での裁判手続を要するため、数か月から年単位の時間と手間がかかるのが一般的でした。(例外的に、強制執行認諾文言(直ちに強制執行手続に服する旨の文言)の入った公正証書がある場合には、すぐに強制執行手続をとることができましたが、そのような公正証書を作成できる例はあまり多くありませんでした。)
これに対し、養育費について先取特権が導入されたことで、養育費の不払いがあった場合は、債務名義を取得するための手続を経ることなく、強制執行手続をとることができるようになります。
先取特権を行使するための要件として「担保権の存在を証明する文書」が必要とされています。例えば、養育費の金額や支払方法を定めた離婚協議書などが考えられ、必ずしも公正証書による必要はなくなりました。
また、先取特権の行使対象となるのは、債務者(養育費支払義務者)の全財産ですから、預貯金や不動産、給与債権等に対して差押えを行い、そこから養育費を回収していくことができます。
これにより養育費の支払いを求めるための負担が軽減されることが期待されますが、必ずしも取り決めた養育費全額について先取特権が認められるわけではないことに注意が必要です。
改正民法では、先取特権が認められる養育費の範囲について「…子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)について存在する。」(民法第308条の2)とされています。
したがって、例えば離婚協議書でかなり高額な養育費を定めてあったとしても、不払いがあった場合に先取特権で回収できる金額は、その一部にとどまる可能性もあるということです。
法定養育費制度の新設
上記のとおり、これまでは養育費は父母の協議によって取り決めるのが原則で、協議によらない場合は調停、審判手続で定めることが必要でした。
また、養育費支払義務の始期については「請求時」とされていたため、離婚時から請求時までの“空白期間”が生じ、その間の子の監護養育に支障を来すケースが多く見られました。
この問題を解消するため、今回の民法改正で新設されたのが法定養育費制度です。
少し長いですが、法律の条文を引用すると「父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、(中略)毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。」(民法第766条の3第1項)と定められています。
つまり、養育費の取り決めをしないまま離婚した場合であっても、子を引き取って養う親は他方の親に対し、毎月末に一定額の養育費を請求できる、というものです。
そして、この法定養育費の始期については「離婚の時から」生じるものとされているため、離婚後しばらく養育費の請求をしなかった場合でも、離婚の時まで遡って請求できるということです。
他方、法定養育費の終期(いつまで請求できるのか)については、次の三つのうちいずれか早い日までとされています。
- 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日
- 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
- 子が成年に達した日
本来、養育費は父母の協議や調停、審判手続で定められるもので、法定養育費はあくまでも暫定的なものという性質から、①②により終了となります。
また、令和4年に成人年齢が引き下げられたことから、③は満18歳の誕生日ということになります。それ以前は満20歳で成年であったため、養育費の終期も満20歳になる月までと定めることが一般的で、大学通学中や進学予定の場合には満22歳になった後の3月末までとする例も多くありました。成人年齢引き下げ後も、当事者間の協議や調停、審判手続では従前と同じ定め方をするのが一般的です。これは、満18歳では子がまだ独立しておらず経済的に未成熟である例が多く、引き続き親の監護養育が必要であると考えられるためです。
これに対し、法定養育費はあくまでも最低限度の養育費を確保するという目的から、終期についても満18歳に達する日までに限定されたものと考えられます。したがって、それ以後も養育費を請求するためには別途協議あるいは調停、審判手続で定める必要があります。
調停における情報開示手続の変更
上記のとおり、養育費を検討する際、子どもの人数や年齢のほか、父母双方の収入状況を考慮して定めるのが通常です。
したがって、当事者間あるいは調停の場において養育費について協議する場合、父母双方が、自分の収入状況を示す資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書の控え等)を開示することが求められます。
しかし、この収入資料を開示することについて、これまでは法的な義務があるわけではありませんでした。そのため、特に養育費を支払うことになる当事者が収入資料の開示に協力しないことがあり、そのため適正な養育費の算定が困難になったり、協議自体がなかなか進まないといった例も多く見られました。
そこで、今回の養育費制度の改正の一つとして、情報開示命令が定められました。
調停、審判手続について定める家事事件手続法では、養育費についての調停、審判手続において、「家庭裁判所は、…必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対し、その収入及び資産の状況に関する情報を開示することを命じることができる。」(同法第152条の2第2項)と定められています。
したがって、相手方が任意に収入資料を開示しない場合、家庭裁判所から情報開示命令をしてもらうよう申し立てることができます。
そして、この情報開示命令に対し、正当な理由なく情報を開示しなかったり、虚偽の情報を開示したときは、ペナルティとして10万円以下の過料が科されることとされています(同3項)。
これまで当事者の任意提出に頼っていた収入資料について強制力のある開示命令が定められたことにより、スムーズな収入資料の提出が促され、円滑な養育費の算定、協議が行われることが期待できます。
なお、この情報開示命令は、調停だけでなく、審判手続き及び離婚等の訴訟手続においても導入されています。
以上に見てきたように、養育費制度の主な改正内容として、先取特権の導入、法定養育費制度の新設、調停における情報開示手続の変更を紹介しました。
これらの導入により、これまでは養育費の取り決めができなかったり、取り決めたはずの養育費がきちんと支払われず泣き寝入りしていたようなケースでも、適正な養育費をきちんと受け取ることができるようになる可能性が広がり、養育費不払いの問題が一定程度改善することが期待できます。
もっとも、それらについて十分な知識のないままではせっかくの制度改正の恩恵を受けることができません。また、養育費を実際に受け取るためには、そのための準備と手続を着実に行う必要があります。例えば、先取特権を行使するために必要となる「担保権の存在を証明する文書」として離婚協議書を利用する場合、養育費についての記載が不正確、不明確であったりすると、先取特権を行使できないことになるおそれもあります。あるいは養育費不払い状態のまま放置しているうちに時効により請求権が消滅してしまうことにもなりかねません。
したがって、養育費問題については少なくとも弁護士に相談して十分な知識を得ることが重要ですし、可能であれば養育費の取り決めやその後の請求手続についても弁護士に依頼することをおすすめします。
養育費は離婚後の生活、特にお子さんの養育環境のためにはとても重要なものですので、養育費についてお悩みの方はぜひ当事務所にご相談ください。


